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名古屋地方裁判所 平成9年(わ)1509号・平9年(わ)2014号・平9年(わ)2333号・平9年(わ)1236号・平9年(わ)2338号・平9年(わ)1089号・平9年(わ)966号・平9年(わ)1654号 判決

主文

一  被告人Aを懲役四年六月及び罰金一億円に処する。

被告人Bを懲役三年及び罰金一〇〇〇万円に処する。

二  被告人Aに対し、未決勾留日数中三三〇日をその懲役刑に算入する。

被告人Bに対し、未決勾留日数中六〇日をその懲役刑に算入する。

三  被告人Aにおいてその罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人Bにおいてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

四  被告人Bに対し、この裁判確定の日から五年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人A及び同Bの両名は、岐阜県羽島市<住所略>に居住してその所有する土地を売却したCから依頼されて、DとともにCの所得税の申告手続に関与したものであるが、C及びDと共謀の上、Cの平成六年分の所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめとトラブル解決料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、Cの平成六年分の実際の総所得金額が零円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が三八九六万九四八五円であったのに、平成七年二月二〇日岐阜市加納清水町四丁目二二番地の二所在の所轄岐阜南税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が零円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六六五万七八〇円で、これに対する所得税額が一三九万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Cの正規の所得税額九五〇万四七〇〇円と右申告税額との差額八一一万二七〇〇円を免れた。

第二  被告人A及び同Bの両名は、岐阜市<住所略>に居住してその所有する土地を売却したEから依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事したFの依頼を受けて、GとともにEの所得税の申告手続に関与したものであるが、F及びGと共謀の上、Eの平成六年分の所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめ依頼・相談料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、Eの平成六年分の実際の総所得金額が零円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六四八二万六九五七円であったのに、所得税の確定申告期限の経過後である平成七年五月二三日、岐阜市千石町一丁目四番地所在の所轄岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が零円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が一二一一万三七八三円で、これに対する所得税額が二八二万三一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Eの正規の所得税額一七三二万七八〇〇円と右申告税額との差額一四五〇万四七〇〇円を免れた。

第三  被告人A及び同Bの両名は、岐阜県本巣郡<住所略>に居住してその所有する土地を売却したHから依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事したIの依頼を受けて、前記GとともにHの所得税の申告手続に関与したものであるが、I及びGと共謀の上、Hの平成七年分の所得税を免れようと企て、不動産の売却に伴う架空の取りまとめ料を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、Hの平成七年分の実際の総所得金額が二二一万一二〇〇円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六三三三万八〇〇円であったのに、平成八年三月一五日、所轄の前記岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が二二一万一二〇〇円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が九七八万円で、これに対する所得税額が二五四万六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Hの正規の所得税額一七〇九万四六〇〇円と右申告税額との差額一四五五万四〇〇〇円を免れた。

第四  被告人A及び同Bの両名は、愛知県西春日井郡<住所略>において馬主事業を営むJ(平成八年○月○日死亡)から依頼されて同人の所得税の申告手続に関与したKの依頼を受けて、Jの所得税の申告手続に関与したものであるが、J及びKと共謀の上、Jの平成七年分の所得税を免れようと企て、架空の顧問料及び接待交際費を計上する方法により所得を秘匿した上、Jの平成七年分の実際の総所得金額が七一九六万二三七四円であり、これに対する所得税額が二四一四万六五〇〇円であるのに、平成八年二月二九日、名古屋市西区押切二丁目二一号所在の所轄名古屋西税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が三〇六八万九七一四円で、これに対する所得税額が三五一万三五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Jの正規の所得税額との差額二〇六三万三〇〇〇円を免れた。

第五  被告人A及び同Bの両名は、日本サッカー協会に所属し、株式会社名古屋グランパスエイトの契約選手であるLから依頼されて同人の所得税の確定申告手続に関与したものであるが、Lと共謀の上、同人の平成七年分の所得税を免れようと企て、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿した上、Lの平成七年分の実際の総所得金額が二五六八万六六〇円であり、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除して三七万四〇〇〇円であるのに、平成八年三月一五日、名古屋市千種区振甫町三丁目三二所在の所轄千種税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一五六八万六六〇円で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除すると三二七万七八七〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Lの正規の所得税額との差額三六五万一八〇〇円を免れた。

第六  被告人A及び同Bの両名は、日本サッカー協会に所属し、前記名古屋グランパスエイトの契約選手であるMから依頼されて同人の所得税の確定申告手続に関与したものであるが、Mと共謀の上、同人の平成七年分の所得税を免れようと企て、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿した上、Mの平成七年分の実際の総所得金額が一八九三万九二四五円であり、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除して一三万四三七七円の還付であるのに、平成八年三月一五日、所轄の前記千種税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が八九三万九二四五円で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除すると三〇九万一一七七円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Mの正規の所得税額との差額二九五万六八〇〇円を免れた。

第七  被告人A及び同Bの両名は、日本自転車振興会に登録された自転車競技選手であるNから依頼されてその所得税の申告手続に関与したものであるが、Nと共謀の上、同人の平成七年分の所得税を免れようと企て、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿した上、Nの平成七年分の実際の総合課税される所得金額が一三一四万三六四八円であり、分離課税される長期譲渡所得金額が四〇〇万五〇〇二円の損失で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除して二六四万八五五〇円の還付であるのに、平成八年三月一八日(郵政官署消印平成八年三月一五日)、三重県松阪市殿町一三一五番地三所在の所轄松阪税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が三二七万四七五三円で、これに対する所得税額は源泉徴収された税額を控除すると三四四万七五六〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右Nの正規の所得税額との差額七九万九〇〇〇円を免れた。

第八  被告人A及び同Bの両名は、別紙犯罪事実一覧表1「納税義務者・共犯者」欄記載の株式会社福岡ダイエーホークスほか五球団と野球選手契約を締結したプロフェッショナル野球選手であるOほか一八名から各依頼されて、同人らの同表「年分」欄記載の平成六、七年の所得税の申告手続に関与したものであるが、同表「納税義務者・共犯者」欄記載の右Oほか一八名と各共謀の上、同人らの平成六、七年分の各所得税を免れようと企て、架空の顧問料などを計上する方法により所得を秘匿した上、同人らの平成六、七年分の実際の総所得金額、これに対する所得税額及び源泉徴収された税額を控除した申告納税額は、それぞれ同表の「実際税額等」欄の「総所得金額」、「所得税額」及び「申告納税額」各欄記載のとおりの金額であるのに、同表「申告年月日」欄記載の平成七年二月二八日から平成八年五月二三日までの間、前後二〇回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の福岡市中央区天神四丁目八番地所在の所轄福岡税務署ほか一二か所において、各税務署長に対し、その総所得金額、これに対する所得税額及び申告納税額は、それぞれ同表の「所得税確定申告状況」欄の「総所得金額」、「所得税額」及び「申告納税額」各欄記載のとおりである旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同表「脱税額」欄記載のとおり、Oほか一八名の正規の所得税額との差額合計二億三五八一万七三〇〇円を免れた。

第九  被告人Aは、別紙犯罪事実一覧表2「納税義務者・共犯者」欄記載の株式会社中日ドラゴンズほか一球団と野球選手契約を締結したプロフェッショナル野球選手であるPほか一名から各依頼されて、QとともにPほか一名の平成七年分の所得税の申告手続に関与したものであるが、Q及びPほか一名と各共謀の上、右Pらの平成七年分の各所得税を免れようと企て、架空の顧問料を計上する方法により所得を秘匿した上、同人らの平成七年分の実際の総所得金額、これに対する所得税額及び源泉徴収された税額を控除した申告納税額は、それぞれ同表の「実際税額等」欄の「総所得金額」、「所得税額」及び「申告納税額」各欄記載のとおりの金額であるのに、同表「申告年月日」欄記載の平成八年三月一五日から同月二七日までの間、前後二回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の所轄昭和税務署ほか一か所において、各税務署長に対し、その総所得金額、これに対する所得税額及び申告納税額は、それぞれ同表の「所得税確定申告状況」欄の「総所得金額」、「所得税額」及び「申告納税額」各欄記載のとおりである旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同表「脱税額」欄記載のとおり、Pほか一名の正規の所得税額との差額合計一一八五万二〇〇円を免れた。

第一〇  被告人Aは、岐阜市<住所略>に居住してその所有する土地を売却したRから依頼されて同人の代理人としてその所得税の申告手続に従事したSの依頼を受けて、前記G及びTとともにRの所得税の申告手続に関与したものであるが、S、G及びTと共謀の上、Rの平成四年分の所得税を免れようと企て、架空の保証債務を作出し、その履行を仮装して不動産譲渡所得を圧縮する方法で所得を秘匿した上、Rの平成四年分の実際の総所得金額が一六二万八二三一円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が六七八二万四五一三円であったのに、平成五年三月一日、所轄の前記岐阜南税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一九八万五一三六円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が三〇〇万五三七五円で、これに対する所得税額が一〇一万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Rの正規の所得税額二〇四二万三二〇〇円と右申告税額との差額一九四一万円を免れた。

第一一  被告人Aは、愛知県刈谷市<住所略>に居住してその所有する土地を売却したUから依頼されて、TとともにUの所得税の申告手続に関与したものであるが、U及びTと共謀の上、Uの平成四年分の所得税を免れようと企て、不動産売却に伴う架空の取りまとめ料を計上する方法により所得を秘匿した上、Uの平成四年分の実際の総所得金額が三七一万六二〇〇円で、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が五九一三万五〇一六円であったのに、平成五年三月一五日、愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所在の所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が三七一万六二〇〇円、分離課税による長期所有土地にかかる譲渡所得の金額が二七万六二五〇円で、これに対する所得税額が八万二八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、Uの正規の所得税額一七七七万五五〇〇円と右申告税額との差額一七六九万二七〇〇円を免れた。

(証拠の標目)<省略>

(補足説明)

被告人Aの弁護人は、判示第二の犯行(Eに関する事案)について、土地の売買代金が二八六万六五〇〇円圧縮して計上されており、また、判示第三の犯行(Hに関する事案)について、造成費七〇〇万円と印紙代六万円が架空に計上されているが、被告人Aは、こうした事実を知らなかったから、このような売買代金の圧縮分や架空経費まで同被告人にほ脱の責任を負わせることはできない旨主張する。

そこで、検討するに、前掲関係証拠によると、判示第二の犯行は、被告人Aが、母親のEからその所有土地の売買と税務申告を任されていた共犯者Fの依頼を受けて、Eの所得税の申告に関し、納税分と報酬分とを合わせて一一〇〇万円で脱税工作をすることを請け負った事案であり、被告人Aは、Fから、同人が関与して作成された売買代金を実際より低く記載した不動産売買契約書の写し及び領収書等確定申告に必要な書類を受け取り、五五〇〇万円の架空の取りまとめ依頼料及び相談料を経費に計上して、Fの依頼にそった脱税請負を実行したが、確定申告書の作成を被告人Bに任せており、売買契約書の代金が実際の代金より低額に記載されていたことを特に認識していなかったこと、また、判示第三の犯行も、同様に、被告人Aが、父親のHからその所有土地の売買と税務申告を任されていた共犯者Iの依頼を受けて、Hの所得税の申告に関し、納税分と報酬分とを合わせて一二〇〇万円で脱税工作をすることを請け負った事案であり、被告人Aは、Iから、同人が偽造した架空土地造成費の領収書及び同人が関与して作成された不動産売買契約書の写し等確定申告に必要な書類を受け取り、五〇〇〇万円の架空の取りまとめ料を経費に計上して、Iの依頼にそった脱税請負を実行したが、確定申告書の作成を被告人Bに任せていて、造成費の領収書が偽造されたものであること及び不動産売買契約書の原本に印紙が貼られていないことを明確に認識していなかったことが認められる。

しかしながら、租税ほ脱犯は、納税義務者が不正行為により税を免れることにより成立する犯罪であって、各暦年における所得は不可分であり、故意はこの観念的に不可分な所得を対象とするから、各年毎に申告所得額、税額を超える所得、税額が存在することの概括的な認識があれば、故意は不正行為と相当因果関係にあるほ脱所得の全部について成立し、個々の勘定科目や会計上の取引事実は故意の対象にならないものと解される。そして、共犯者が他の共犯者のほ脱に関する行為の一部を認識していなかった場合でも、それは同一構成要件における具体的事実の錯誤の問題であって、故意を阻却しないものと解される。そうすると、右に認定した事実関係に基づけば、被告人Aは、共犯者のFあるいはIから依頼を受けて脱税工作を請け負い、同人らと共謀して、その共同意思の下に、所得秘匿の重要な部分を分担し、申告所得額、税額を超える所得、税額が存在することを概括的に認識していたから、共犯者であるFあるいはIの関与した一部不正事実について具体的な認識を欠いていたとしても、故意は、各申告所得額を超える所得全部について成立し、そのほ脱についての罪責を免れないものである。

(法令の適用)

一  被告人両名の判示第一、第八の一覧表1番号1ないし7、8の<1>、9の各所為並びに被告人Aの判示第一一の所為は、それぞれ平成七年法律第九一号による改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という)六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に該当する。

被告人両名の判示第二の所為及び被告人Aの判示第一〇の所為は、それぞれ改正前の刑法六五条一項、六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項に該当する。

被告人両名の判示第三の所為は、刑法六五条一項、六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項に該当する。

被告人両名の判示第四ないし第七、第八の一覧表1番号8の<2>、10ないし19の各所為並びに被告人Aの判示第九の一覧表2番号1、2の各所為は、それぞれ刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に該当する。

二  被告人Aの関係で、判示第八の一覧表1番号8の<1>の罪及び判示第一一の罪につき、懲役刑を選択し、同被告人の関係するその余の各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、かつ、情状により、判示第一ないし第四、第八の一覧表1番号1ないし4、9ないし16、18、第九の一覧表2番号2、第一〇の各罪につき、それぞれ所得税法二三八条二項を適用して罰金の額はいずれもその免れた所得税の額に相当する額以下とする。

被告人Bの関係で、同被告人の関係する各罪につき、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、かつ、判示第八の一覧表1番号14の罪につき、情状により、所得税法二三八条二項を適用して罰金の額はその免れた所得税の額に相当する額以下とする。

三  併合罪の処理

被告人両名の関係で、関係する各罪は、それぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により、それぞれ犯情の最も重い判示第八の一覧表1番号1の罪の刑に法定の加重をする。また、罰金刑については、同法四八条二項により、それぞれ関係する各罪について定めた罰金の多額を合計する。

四  未決勾留日数の算入

被告人両名の関係で、それぞれ刑法二一条

五  労役場留置

被告人両名の関係で、それぞれ刑法一八条

六  懲役刑の執行猶予

被告人Bの関係で、刑法二五条一項

(量刑の事情)

一  本件各犯行に至る経緯等は、次のとおりである。

1  被告人Aは、徳島県の中学校を卒業後岐阜県で就職し、昭和五一年三月に定時制高校を卒業して、縫製業を営んだ。そして、昭和五七年に縫製業を会社組織にし、その後、商品の販売等を目的とする会社も設立したが、昭和六〇年に経営する会社がいずれも倒産した。被告人Aは、その後、郷里の徳島県において、中小企業相談協会の名称で、行政関係の許認可などの交渉事を請け負う仕事をしたが、昭和六三年に岐阜県に戻り、名古屋市内のマンションに事務所を設けて、同様の名称で経営コンサルタント業を営み、金融機関からの融資や借入金の条件変更などに関する相談事や交渉、行政関係の許認可や土地収用の立ち退き金の交渉などのほか、納税に関する税務署との交渉も仕事にするようになった。

一方、被告人Bは、昭和五五年に簿記の専門学校を卒業し、以後税理士事務所で働き、その傍ら、平成元年ごろには名古屋市内で会計事務、経営コンサルタント及び損害保険代行業務等を目的とする会社を設立した。

2  被告人Aは、平成四年九月ごろ、顧客の紹介を受けていた知人の共犯者から依頼者を紹介されると、自己に脱税工作を依頼するように勧誘し、会計事務所に事務員として勤務する共犯者Tに架空の多額保証債務を計上した確定申告書の作成を依頼して、判示第一〇の犯行に及んだ。そして、同様に、依頼者から脱税を請け負い、右Tに不動産売却に伴う取りまとめ料の名目で架空の多額経費を計上した確定申告書の作成を依頼して、判示第一一の犯行に及んだ。

3  被告人Aは、かねて親しく交際していたプロ野球選手に対して、「税金を安くする仕事をしているので、税金で困っている者の相談に乗る」などと持ち掛け、平成五年ごろ、この選手から紹介を受けた新人選手の所得税確定申告に関与したことを切っ掛けとして、多くのプロ野球選手と交遊していた。また、前記Tについて、税務知識が不足しているものと感じ、その仕事の内容にも不満を持っていたところ、平成七年一月ごろ、被告人Bがその所得税の確定申告等に関与したプロ野球球団中日ドラゴンズの選手から、被告人Bを紹介され、被告人Bがプロ野球選手の確定申告の仕事なども手掛けていることを知った。そこで、被告人Aは、右Tに代えて被告人Bに不正な確定申告書の作成などをさせようと考え、被告人Bに対し、相応の報酬を支払い、確定申告書を作成してもらった選手を翌年から被告人Bの顧客にするなどと好条件を持ち出して、架空の経費を計上したプロ野球選手の確定申告書を作成することなどを依頼した。そして、いぶかる被告人Bに対して、「中小企業相談協会が領収書を切れば税務署も通してくれる。今までその実績がある。選手と交わす架空の顧問契約書も弁護士が作成したもので、税務署の審理も通っている。問題が起きても責任はすべて自分がとる」などと申し向けて説得した。こうした説得を受けて、被告人Bは、被告人Aの依頼に応じ、被告人両名は、共謀して、判示第一ないし第八の各犯行を敢行した。また、被告人Aは、税理士を顧問として会計処理をする会社を経営しているQにも架空の経費を計上したプロ野球選手の確定申告書を作成することを依頼して、判示第九の各犯行に及んだ。

二  本件は、このようにして、被告人Aが他の共犯者と共謀して行った四件の所得税法違反の事案と、被告人両名が他の共犯者と共謀して行った二七件の所得税法違反の事案であり、多数の依頼者から脱税を請け負い、架空の多額経費を計上して敢行された常習的かつ職業的な犯行である。そして、その手口が大胆である上、脱税額は、被告人Aの関係で総額約三億五〇〇〇万円、被告人Bの関係でも約三億一〇〇万円と極めて多額である。ほ脱率も、九〇パーセントを超えるものが二件(第一〇、第一一の各犯行)、八〇パーセントを超えるものが四件(第一ないし第四の各犯行)ある。また、判示第五ないし第七のプロサッカー選手とプロ競輪選手に関する平均ほ脱率は約六二パーセント、判示第八のプロ野球選手に関する平均ほ脱率は約四六パーセント、判示第九のプロ野球選手に関する平均ほ脱率は約四七パーセントであって、決して低率でない。さらに、本件は、長期間にわたり継続して敢行された大規模な脱税請負事犯であることに加えて、国民的に親しまれているプロ野球の多くの著名選手を巻き込んで実行されており、社会に与えた影響も軽視できない。

三  進んで、その量刑を個別に検討すると、まず、被告人Aは、一部に依頼者の側から強く脱税を働き掛けられた事案もあるが、その多くは自ら依頼者に対して積極的に脱税を働き掛けており、本件各犯行の主導者である。そして、被告人Aが本件に関係して依頼者から実質的に受け取った金額は、被告人Aにおいて、判示第一一の犯行について、依頼者から関連する別の相続税の申告に関して報酬等の支払いを受けていて、判示第一一の犯行の報酬を請求しなかったと述べているので、特にこれを除いて控え目にみても二億七〇〇〇万円を超え、その多くを自己の利得として費消するなどしているから、その罪責は重大である。

そうすると、被告人Aにおいて、本件犯行を進んで供述し、自己の行為を反省していること、業務上過失傷害罪等による罰金前科のほかに前科がないこと、扶養すべき妻子や健康の勝れない母親がいること、一部依頼者に報酬として受け取った金銭の一部を返還していること、各納税義務者において、修正申告に応じ、一部を除いて延滞税や加算税も支払っていること、そのほか先に補足説明欄で説明した事情など、量刑に当たって同被告人のために考慮すべき事情もあるが、こうした事情を考慮しても、主文の刑が相当である。

四  次に、被告人Bは、長年にわたり会計事務所に勤めて培った税務知識を利用して、報酬目当てに本件各犯行に加担し、主に虚偽の確定申告書を作成したほか、一部の依頼者を被告人Aに紹介するなど、軽視できない役割を果たし、書類の作成の手数料や紹介料として三〇〇〇万円余の報酬を取得しているから、その刑事責任は重い。

他方、被告人Bには、自己の犯行を進んで供述し、率直に反省していること、被告人Aから前述した経緯で説得されて犯行に加担するようになったもので、確定申告書の作成も被告人Aの指示に従っており、その立場は従属的であったこと、自己の所得税について右手数料等を所得として計上した修正申告をし、その本税や延滞税等を納付していること、扶養しあるいは介護を要する家族がいること、前科前歴がないことなどの酌むべき事情もあるから、主文の刑を量定した上、懲役刑について特にその執行を猶予することとする。

(裁判長裁判官 三宅俊一郎 裁判官 島田 一 裁判官 梅本幸作)

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